毎日きちんと歯みがきをしているのに、虫歯が増えていく。歯ぐきがぶよぶよと腫れている気がする。
磨き方が足りないせいだと、自分を責めてしまう方は多いと思います。でも、原因が別のところにあることがあります。毎日飲んでいるお薬です。
歯科衛生士として、お薬の影響で口の中が変わっていく患者さんを何人も見てきました。そして家では、毎日お薬を飲むぽんたの口を、母として毎晩のぞきこんでいます。
この記事では、お薬で口の中に起こる変化と、家でできることをまとめます。先にお伝えしておくと、薬をやめる話ではありません。続けながらできることがあります。
なぜお薬で虫歯が増えるのか|原因は唾液が減ること
先に結論からお伝えします。お薬で虫歯が増えるのは、薬の成分が歯を溶かすからではありません。唾液の量が減って、口の中を守る力が落ちるからです。
原因が唾液にあるということは、打てる手があるということでもあります。薬を変えなくても、家でできることが残されています。
唾液が減ると、なぜ虫歯が増えるのか
唾液には、口の中を守る働きが大きく3つあります。
- 洗い流す:食べかすや細菌を流してくれる
- 中和する:食後に酸性へ傾いた口の中をもとに戻す
- 修復する:溶け出した歯の表面を補う(再石灰化)
唾液が減ると、この3つが同時に弱まります。同じように歯みがきをしていても虫歯ができやすくなるのは、そのためです。歯みがきの腕が落ちたわけではありません。守ってくれていたものが減っただけです。
神経に働くお薬には、唾液の分泌を抑える作用を持つものがあります。抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬などです。抗うつ薬や抗精神病薬などの神経系のお薬は、唾液の分泌を抑えることで虫歯や歯周病を起こしやすくすると、日本歯科医師会も注意を呼びかけています。
ぽんたも、かんしゃくのお薬を飲んでいます。飲みはじめてしばらくして、水筒が空になって帰ってくる日が続きました。夏だからと思っていましたが、朝は唇の皮がむけていて、口のにおいも前より強くなっていました。振り返ると、あれが渇きのサインでした。
お薬そのものについては、別の記事に詳しく書いています。

家で気づける、口が渇いているサイン
言葉で伝えられない子ほど、まわりが見て気づくしかありません。次のような変化がないか、今日の様子を思い出してみてください。
- 水をほしがることが増えた
- 唇が乾いて皮がむける
- 口の中がねばついて、糸を引くように見える
- 飲み込みにくそうで、食事に時間がかかるようになった
- 口のにおいが強くなった

うちの子、最近やたらと水をほしがるんです。夏だからかと思っていました

季節のこともありますが、お薬を飲みはじめた時期と重なっていないか、一度振り返ってみてください
歯ぐきが腫れる副作用もある
歯みがきのときに血が出る、歯ぐきが赤くぶよぶよしている。そんなときに、もうひとつ知っておいてほしい変化があります。薬物性歯肉増殖症といって、お薬の影響で歯ぐきがふくらんでくることがあります。
起こりやすいと知られているのは、抗てんかん薬のフェニトイン、免疫抑制薬のシクロスポリン、血圧のお薬(カルシウム拮抗薬)です(日本口腔病理学会)。どのくらいの割合で出るかは報告によって幅がありますが、長く飲んでいる方ではめずらしいことではありません。
見た目は、歯と歯のあいだの歯ぐきがぷくっとふくらむところから始まります。はじめはやわらかい腫れですが、時間が経つと硬くなっていきます。
わたしが仕事で見てきたのは大人の患者さんですが、歯ぐきが盛り上がって歯が半分埋もれかけている状態は、かなり進んでから気づかれることが多いです。まして子どもの口の中は、まわりの大人が見ないと気づけません。
ここからが、いちばん伝えたいところです。この腫れは、歯垢が多いほど起こりやすいとされています。裏を返せば、口をきれいに保てているほど起こりにくいということ。お薬を続けながら、家のケアで抑えられる副作用なんです。
毎日の仕上げ磨きの工夫は、こちらにまとめています。

家でできること4つ
① 寝る前の飲み物を水にする
眠っているあいだは唾液がいちばん減ります。そこに糖分の入った飲み物が加わると、虫歯のリスクは一気に上がります。わが家はこれで失敗しました。

② 口を動かす機会をつくる
よく噛むこと、声を出すこと、それだけでも唾液は出ます。食べもののかたさを少し上げてみる、歌の出る動画に合わせて声を出す。無理のない範囲で、口を使う時間を増やしてみてください。
歯科には唾液腺マッサージという方法もあります。耳の少し前(上の奥歯のあたり)を指の腹で後ろから前へ、あごの骨の内側のやわらかいところを親指で軽く押し上げる。痛くない強さで10回ずつで十分です。触られるのが苦手な子は、機嫌のよいときに数秒からで構いません。
③ 保湿する
口腔用の保湿ジェルやスプレーを使うと、乾燥による不快感がやわらぎます。スポンジブラシで口の中をやさしく拭いてから塗ると、なじみがよくなります。
④ フッ素を続ける
唾液が減っている口ほど、フッ素の助けが要ります。うがいができなくても使い方はあります。

自己判断でお薬をやめないでください
口の副作用が気になっても、勝手に減らしたり中止したりしないでください。
お薬が支えている部分が崩れると、本人の生活そのものがしんどくなります。口の変化と、いま保てている暮らし。天秤にかけて決めることではありません。
気になったら、主治医か薬剤師に相談してください。口の渇きが出にくいお薬に変えられる場合もありますし、量の調整で軽くなることもあります。

口の副作用が心配で、量を減らせないか自分で考えていました

その気持ちはわかります。ただ、減らす判断だけは主治医と一緒にしてください。口は、飲みながらでも守れます
歯科と主治医に伝えるときのメモ
受診のときは、次のことを伝えられると話が早く進みます。電話や窓口で慌てないよう、メモにしておくと安心です。
- お薬手帳を持っていく(歯科でも見せてください)
- どのお薬を、いつから飲んでいるか
- 口の変化に気づいたのはいつごろか
- 水をほしがる、飲み込みにくいなど、家で見えている様子
- 歯ぐきの腫れがあれば、いつから、どのあたりか
そもそも歯科の受診自体が大変という場合は、こちらもあわせてどうぞ。

口の乾燥対策に使うもの
保湿ジェルやスプレー、スポンジブラシは薬局でも通販でも手に入ります。歯科衛生士として、選ぶときに見てほしいのは次の3つです。
- においや味が強すぎないもの。感覚が敏感な子は、味で拒否することがあります
- ジェルは伸びのよいもの。少量で口全体に広がると、触れる時間が短くて済みます
- スポンジブラシは軸がしっかりしたもの。先が抜けると誤飲につながります
はじめは少量から試してください。嫌がるようなら無理に続けず、種類を変えてみるほうが結果的に長く続きます。
この3つで選ぶなら、たとえばこのあたりです。歯科でも名前の挙がるジェルと、軸のしっかりしたスポンジブラシを挙げておきます。
まとめ
- お薬で虫歯が増えるのは、成分ではなく唾液が減ることが原因
- 唾液には洗い流す・中和する・修復するの3つの働きがある
- 水をほしがる、口がねばつく、飲み込みにくいは、渇きのサイン
- 抗てんかん薬などで歯ぐきが腫れることがあるが、口をきれいに保てば起こりにくい
- 寝る前の飲み物、口を動かすこと、保湿、フッ素。家でできることはある
- 気になっても自己判断で薬をやめない。主治医と薬剤師に相談する
お薬は、その子の生活を支えるために飲んでいるものです。口の変化に気づけたなら、やめるのではなく、守り方を足していきましょう。
この記事は、歯科衛生士としての知識と家庭でのケアの経験をもとに書いた一般的な情報です。診断や治療に代わるものではありません。気になる症状があるときは、主治医・薬剤師・歯科にご相談ください。

